味の設計図を作る 3


今回は、試作会と試食会の効果的な実行方法をお伝えします。


そもそもですが、試作会と試食会の違いをご存知でしょうか?
根本的にこの違いを理解していないと、
商品開発は無駄なコストと時間を要してしまいます。
似ているようですが、試作会と試食会では、
そもそもの意図が違いますから正しく理解しましょう

試作会とは、開発する商品の構成要素を決め込む作業の事です。
この段階では、味の設計図通りの商品が出来上がるかを検証します。

ですから、原価も見栄えもオペレーションも考慮することなく、
商品コンセプトと味の設計図の具現化に集中します。

食材1品1品を吟味し、商材のバランス、味のバランスを検証します。
大まかな調理工程と現場のオペレーションをイメージしながら、
如何に消費者に取って、魅力的な商品となり得るかを検証する段階です。

この段階を経ないで商品を開発すると、どうなるかと言いますと、
魅力的でない、価値の低い商品が出来上がってしまいます。
当然のことと思います。
魅力的な商品を作ることが目的ではなく、
最初から売価に縛られ、原価を意識して、
仕込み工程と現場のオペレーションに拘束され、
そんな状況で商品を開発してしまい、
つまらない売れない商品となってしまいます。

しかも、売価を必要以上に低く設定して!

価値を提供しなければならないのに、
価値を提供出来ないような売価設定を基準にして、
商品開発を行ってしまいます。


この原因は、メニューコンセプトと商品コンセプトの欠如です。

お客様に提供する価値も、経験も、感動も決めない状態で、
商品の方向性が明確になるわけがありません。

その延長線上にヒットする商品も、
お客様に響く商品も作れることは稀なことと思います。

ですから、試作段階では、あらゆる制限を外して、
純粋に商品価値を上げること、
いかにこの1品を魅力的に出来るかを考えます。

ですから、食材をチャレンジして、
ポーションをいくつか試して、
味の方向性を数通り作ってみます。

同じ食材でも、ポーションによって最後の味の記憶が違ってきます。
勿論見た目も、イメージも、インパクトも。

味の方向性も、塩味を強くしてみる、フレーバーを効かす、
旨味を強調する、後ろから味を感じさせるなど、
幾つかの方向を試作してみます。

ですから、この段階は検証作業の段階です。
制限を突破して、発想を自由にして、
色々とチャレンジをしなければならない段階です。

そうすることで、トライアンドエラーの後に、
魅力的な商品候補がいくつか見えてきます。

この試作段階を正しく通過せずに、
いきなり試食会に突入するので、大きなブレが生じ、
混迷が始まってしまいます。


これまでも数え切れないほどの試食会に呼ばれてきました。
出て来た商品候補を見て、
今日は試作会ですか?試食会ですか?と、
幾度となく聞いたことがあります。

社長はじめ幹部にご出席の上で始める試食会で、
商品レベルに達していない試作段階の商品を、
並べてしまう場合があります。

過去には、この段階で自分を呼ぶなと、
怒りを露わにした経営者の方もいらっしゃいました。

当然のことと思います。
多忙を極める中、時間を割いて試食会に出席してみたら、
非常にレベルの低い、到底お客様には提供できない状態の商品を試食させられる、
トップの方が「呼ぶな」と感じても、もっともなことと思います。

私は常々、飲食業のトップは、
消費者の代弁者であれと、言っております。

その業態の一番のファンであり、一番厳しい消費者の代表でいてくださいと。
一番のファンであり業態を愛しているからこそ、
消費者に成り代わり、本当の意見をスタッフに伝えてくださいと、
お伝えしております。

ですから、トップがこの段階で呼ぶな!という意味は、
お客様が、こんな商品を出すな!と、
叫んでいることと同義なことです。


試作会を行うことで、より発想が自由となり、
今まで見えてこなかった商品の可能性が見えて来ます。
より豊かな商品を開発することが可能になります。

あらゆる可能性をテストすることで、
全く新たな商品が生まれることもしばしばです。

この試作会は、多くの場合3回ほど行います。
1回目は、商材の選択と味の方向性の絞り込み、
調味料のバランスを変えて、ある方向性の味を強調してみます。

2回目は、実際に作りこんでみます。
使用する食器も盛り付けなども気にすることなく、
ただ単純に調理に向き合います。

3回目は試食会に向けて、決め込んできます。
味の方向性を2種類程度決める、
使用する食器をいくつか選んでみる、
盛り付けをいくつか試してみるなど、
商品化するための前段階の作業を来ないます。

1回目と2回目の試作を、時間をかけてじっくりと、
楽しみながら行ってください。

お客様に喜びと楽しさを提供することが飲食店の使命です。
その楽しさを伝える商品を作る方々が苦労してはいけません。
どうか楽しんで行ってください。

食の探検のするようなイメージで、
ワクワクしながら行ってください。

次に試食会です。

試食会も通常3回に程度行います。

1回目の試食会では、商品の魅力を徹底検証します。
試作により、同じ商品でもいくつかの方向の試作品が出て来ます。

味の方向が違うもの、盛り付けが違うもの、
使用食器が違うもの、ポーションが違うものなど、
それぞれの特徴を吟味していきます。

この中から、2回目にチャレンジする候補商品を決めます。
勿論、試作されたそのものに決まる場合もありますが、
多くは提供された試作品のそれぞれの要素をミックスした結果になります。

味はこれで、盛り付けはこっち、
食器はこちらに変えて、
飾りつけはこれに変更してなど、
当初出された商品のより魅力的な部分をミックスして、
次回に望む形になります。

この段階で、新しい商品が発掘されることもあります。
新たな要素が加わって、、
全く新しい商品候補が出てくることもしばしばです。


2回目は、前回の結果を踏まえ具体的な商品に近いものが出て来ます。
これを基準に、原価を検証し売価をイメージし、
ネーミングもキャッチコピーも候補出しします。

現場のオペレーションも考慮しておきます。

調理工程も、ホールオペレーションも。
幾ら綺麗な盛り付けでも、時間がかかりすぎる、
ホールスタッフが持っていけないような商品では、
導入出来ません。

原価と食材確保などの件は、この2回目の試食会に臨む段階で、
裏取りをしておきます。

当然、トップから質問が飛んで出来ますから、
準備しておきます。

いよいよ3回目で、今までの検証内容の最終決定を行います。

商品を決め込み、売価・原価、ネーミング、キャッチコピー、
写真撮りする際のアングルまで、決める場合もあります。


このように、自由な発想で商品を開発し、
段階的に商品をブラッシュアップすることで、
魅力的な商品を開発することが可能となります。

やみくもにいきなり調理をして、
美味しい美味しくないの議論に終始することなく、
消費者に伝えるべき魅力はどのポイントか、
提供できる最大価値は何か、
利益ポイントはどこかなど、
戦略的に商品を開発することが可能となります。

言うまでもなく、
お客様が具体的に対価を支払う対象が商品です。

その商品をいかに大事に作りこむのか、
そこが成否を分けるポイントです。

次に参加メンバーについて解説させて頂きます。

試作段階では、開発メンバーのみで開発を進めていきます。
調理担当者と、いわゆる営業サイドのスタッフとなります。
場合によっては、購買担当の方なども、
仕入れの確認のために立ち会うこともあります。


必要以上に関係者を増やすべきではありません。
意見が出すぎてしまい、決められなくなる危険性があり、
ブレを引き起こす原因となります。

試食会は決裁権を持っている方の出席が義務です。
トップを初め、幹部社員の方で店舗運営の責任を有している方、
購買の担当者や広報の方、
ターゲットとしているお客様に近いスタッフにも出席していただきます。

消費者の立場で商品を吟味できるスタッフに出席していただきます。
この出席者の選択ですが、試食会のテーマに沿って選択します。

1回目は、商品の魅力を確認する段階ですので、
ペルソナに近いスタッフにも出席していただきます。
2回目までは出席していただき、3回目は必要ないと思います。

購買担当は2回目の試食会に出ていただきます。
裏付けを証言していただき、最終決定の前段を立ち会っていただき、
ベンダーさんとの協議を行って頂くための交渉材料を提供します。

具体的に導入する日程が決まりますので、
対象食材を発注するタイミングと、
納期の確認などを行って頂きます。

広報の方は、1回目から3回目まで出席していただきます。
商品が出来上がるまでのストーリーを感じていただき、
プロモーションに反映させて頂きます。

商品が生まれるまでのストーリーを、開発の苦労を、
お金に換える作業を担っていただきます。

最後に、試食会で商品を提供する際の、
タイミングの注意点をお伝えします。

試食会で、初めから全ての商品を、
テーブルいっぱいに並べて行う会社さんがありました。

これでは、経時劣化したものを試食することになり、
消費者が消費する環境と変わってきてしまいます。

また、実際にオーダーが入ってから、
調理にどの程度時間がかかるのかもわかりません。


試食会では、1品ごとに提供するべきです。


試作会と試食会、その違いを理解し正しく運用することで、
より魅力的な商品に仕上げることが可能になるばかりか、
効率よく短期間で開発作業を進めることが可能になります。

この開発手法が通常業務となると、
今までよりも楽に新商品を開発出来るようになります。

どうか、お客様のためにより魅力的な商品を、
世に送り出してください!

大きく期待しております。




確実な価値と、豊かな成果のために
2018年10月24日(水) No.281 (商品関連)

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