夫婦の危機を招いた恐怖のパスタ その2


恐怖のパスタ 続きです

さて、今日は種明かしをしましょう。

あなたも常に効率の良い作業をお考えのことと思います。
いかに手順を簡略化出来るか、
仕込み時間を短縮できるか、
スピード提供が出来るかをお考えのここと思います。

そこで、多くの方が考えるのは、
商品を一発で仕上げることと思います。

今回ご紹介したパスタも、
作業を簡略化して、仕込みを少なくし、
一発で仕上げようとしたため、
非常にレベルの低い商品となってしまいました。

今回、調理長が行った手順を解説します。
私が、商品を見た瞬間に、
「あっ こうやって調理したな!」と、
一瞬で理解した、調理手順です。

先ず、冷たいフライパンに、
にんにくを投入し火にかけます。
香りが立ったら豚肉を投入し色が変わった時点で、
全ての野菜を投入し、全体に火を通します。

ゆであがったパスタを投入し、
一発で調味しました。

これが、彼が行った手順です!

何が起きてるかを説明します。

冷たいフライパンに、にんにくを投入するまでは問題ありません。
しかし、次からが問題です。

先ず、冷たい豚肉をそのままフライパンに入れてしましました。
ご存知のように、豚肉はよく火を通したいので、
シッカリと炒めましたが、
肉同士がくっついている状態で火入れしますから、
これが結果的に、火を入れすぎて細胞が締まってしまい、
美味しさが全くない、肉の塊となってしましました。

豚肉に火が通ったのを確認してから、
野菜類を投入したので、
全ての野菜に火が通るまで炒め続け、
これまたそれぞれの野菜の特性を、殺してしまう結果となり、
肉には火が通りすぎ、キャベツはベチャッとし、人参は少し硬さが残る、
写真のように、日曜日のお父さんが作った、
焼きそばのようになってしまいました。





何が起きているかと言いますと、
素材ごとに火の入り方が違うのに、
全く無視し、全てを同じフライパンで仕上げてしまったわけです。


なぜこのような調理法にしたかを、調理長に聞いたところ、
この方法が、効率が良いからという回答でした。

それを聞いていた、クライアントの社長も至極納得し、
この方法のどこがいけないのを聞いてきました。


一発で仕上げるほうが、効率が良いと思いがちですが、
飲食店で最も、効率を考慮するべきポイントは、
オーダー時にいかに早くスピード提供が出来るか、
高いクオリティの商品を提供すること、
再現性が高く、商品のブレを極力少なくすることです。


そこで、私が常にお伝えしていることは、
食材の特性を理解すること、
食材別、調理別の仕込みを行うこと、
段階的に調味を仕上げていくことです。


下の写真が、私が作った商品の写真です。






肉の色と締まり具合が違うと思います。
キャベツの色と照り、
人参のカットの仕方を替え、色味を加えて、
食べやすさを表現しました。



では、ポイントを解説していきます。


私は常に肉を洗うことを進めています。
過去に私は、肉の解体工場で働いた経験があり、
屠殺されたばかりの肉を解体した経験がありますが、
その時気付いたのですが、
肉には、想像以上に血液が付着していることです。

その経験から、肉を洗うことを推奨しています。
肉を水洗いすることにより、
輸送の段階で抜けてしまった水分も補充でき、
肉をふっくらと柔らかくすることも出来、
血液と共に、臭みも灰汁も除去できます。


手順は、ボールに水を張ってから、
肉を投入し、水がきれいになるまで数回水洗いしてください。

初めて水洗いをした方の感想は、
こんなに水が赤くなるとは、
思っていなかったというものです。


その血液がエグミや臭み、灰汁の原因ですから、
洗浄し除去してください。

そのまま、10分間水に漬けこんで、水分を補給させてください。
肉の状態はフワッフワになります。

旨味も逃げることなく、残っています。


次に、肉の仕込みですが、事前に肉に火を通します。

事前に火を通しておくと、
オーダー時に最終仕上げの火入れをするだけになるので、
スピード提供が可能になり、
肉の状態もふっくらと美味しくなります。


手順は、洗い終わった肉の水分をふき取り、軽く塩を振ります。
これは、素材の旨味を引き出すための塩で、
味を入れるためのもではありません。

そこに粉をふり、湯通しして60%程度火入れし揚げておきます。
余熱で80%程度まで火が入るので、そのままストックしておきます。

この方法ですと、肉はふっくらと仕上がっており、
繊維はしまっておりませんし、臭みもなく、
また、肉の表面はコーティングされているので、
味が絡みやすくなり、より美味しく感じさせることが出来ます。
どのような味でも、商品でも対応できる肉の仕込み方法です。


下の写真は、肉のみを取り出したものです。
同じカットで、使用したグラム数も同じですが、
こんなにも差が出ます。






肉の臭みも無く、旨味は閉じ込められており、
ふっくらと仕上がっており、見た目も大きく見栄え良く、
コーティングされているので、調味料の絡みも良くなっています。



今回の商品のポイントはキャベツの食感と旨味の引き出し方です。
フライパンでキャベツを一発で仕上げると、
キャベツは食感も悪くなり、味も入りません。

そこで、パスタの茹で麺器でボイルしました。
ボイル後すぐにフライパンで煽るので、
色止めをする必要もなく、
食感を残しつつ、茹で麺器の塩水で下味もつけられる方法です。

因みに、人参のカットをいちょう切りから千切りに変え、
早く火が入るようにし、パスタとの絡みも良くしました。



次に、塩の使い方ですが、塩は2段階もしくは3段階の使い方をします。
ご存知のように、塩で味を決めることは難しいことです。

先ず、塩は素材の旨味を引き出すために使います。
今回は野菜を炒めている段階で、ほんの少しだけ塩を振ります。
塩による脱水作用で、野菜の旨味と甘みを引き出し、
旨味のベースを玉ねぎの旨味としました。


各食材をフライパンに投入後に、
初めて調味のための塩を振ります。


ここで、一発で仕上げても良いですが、
出来れば、フライパンの中で食材を一体化させてから、
最終仕上げの塩を振ることをおすすめします。

パスタからの塩味、ゆで汁を投入してソース感を出すなど、
最終的に仕上げた段階で、最終仕上げの塩を振ります。

これにより、塩の角のとれた、旨味を感じる塩味となります。



次に、フライパンの扱い方ですが、
スピード提供を考えると、
どうしても強火で調理したくなりますが、
これは逆効果です。
強火で調理すると火が入りすぎることが多くなり、
又、作業的にも煽られてしまいます。

強めの中火くらいで扱う方が素材の水分を残すことが出来
繊維が締まることもなくなり、美味しく感じられる商品を提供出来ます。

特にイタリアンでは、本来フライパンを煽ることはしません。
ソースを絡めるために、フライパンを振ることはありますが、
中華のように煽ることは本来しません。

このお店の調理長は、フライパンを何度も煽ってしまい、
熱が入りすぎ、水分が飛び、食感が悪くなってしまいました。

これが、上海焼きそば? と、
言われてしまう商品となってしまった原因です。


私の調理方法を調理長に伝えたところ、
作り直した商品は、まあまあ近い感じに仕上がりました。

同じにならなった原因は、肉を洗った後の浸水時間が短いこと、
下味の塩を忘れたこと、人参のカットの仕方を変えなった点です。

それでも、及第点の商品にはなりました。

調理長に、調理後の感想を伺ったところ、
先ず、調理を始めてからの調理時間が格段に早かったことと、
味が決めやすかったと、
仕上げの段階であおられることなく、
落ち着いて作業をすることが出来たと、仰っておりました。

何より、調理が楽だったと仰っておりました。


仕込みを正しく行うこと、
事前にある程度の火入れをすること、
食材の特性を知り、
カット法を変えることにより、
商品クオリティは格段に上がりました。


ついでに、商品の原価を下げることにも成功しました。
肉の見栄えが良くなるので、グラム数を下げました。
キャベツと人参も同様にグラム数を下げました。

調理長いわく、2%は下がると仰っておりました。

商品が美味しくなり、クオリティが向上し、
見栄えも良くなり、伝えたい味と旨味を感じて頂き、
原価が下がって儲けが増える、
理想的な状態に変更することが出来ました。


食材の特性を知り、旨味の引き出し方を知り、
見栄えを良くする術を知り、商品としての完成度を上げる。

そのことが、外食ビジネスには必要なことであり、
手間暇かけて美味しい料理を作ることが、
大切なことではありません。


効率よく、再現性が高く、ロスなく、
消費者に高い価値の商品をお届けすることが、
最も大事なことと思います。


確実な価値と、豊かな成果のために
2018年07月18日(水) No.264 (商品関連)

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